球体POV neon final
はじめに
2015年から球体デバイスを作成しています.
もともとのアイデアは2015年のハッカソンから始まって,MakerFaireTokyo(以下MFT)でも展示させていただいています.
初代は
下はそこからパターンをきれいに表示させることができるようにLEDの数を増やしたもの
と,ここまで来るとLEDの消費電力など限界が見えてきたにも関わらず,ある欲求が首をもたげてきます.
これで絵を表示したい!
....という話は
こちらで語っていますので,こちらではPOVに移行してからのお話を...
今回の球体POV
2018年から球体デバイスをPOV化した取り組みを行ってきており,現在第3世代が進行中です.
今年はfinalの年と位置づけて,完結を目指しています.
POV=バーサライタとは一列に並べたLEDを高速に移動させ,残像現象を利用して映像を表示するディスプレイです.映像を呈示するのに大量のLEDを用意する必要がなく小型・低消費電力化できる点や,回転体(今回の球もそう)であれば立体的な映像表現が可能になる点が利点となります.
第2世代(2019)では
ここまでできていましたが,いくつかの問題点が未解決なのでした.
特に重要なのが次の2点.
- LEDがフルカラーで表示することができなかった
- 姿勢センサが機能していなかった
俺,ここを解決して完結するんだ...(死亡フラグ)
そしてこの課題解決に加えて,
- M5Stack基板 → オリジナル基板への変更
- それに伴う構造部分の再デザイン
という大きな設計変更を行っていきます.
全体デザイン
球体ディスプレイ「neon」は直径10cmとかなり小型のディスプレイです.
このサイズはこのプロジェクトの元々のモチベーション「映えるジャグリングデバイス」が出発点となっていることから由来しています.
私はジャグリングの中でも「コンタクトジャグリング」という種類のジャグリングを練習しており,このボールがディスプレイだったらステキだ,と思ったのが開発のきっかけです(このあとジャグリングよりも電子工作にのめり込んでいったのですが...)
このボールにいろいろな映像が表示され,なおかつ転がしても映像が回転しなかったらどうでしょう?
ステキだと思いませんか?
このボールの直径が基本10cmなのです(もちろんサイズ違いもあります).
そのため
- 手の上に乗るサイズ(10cm)
- ボールとして転がすことができる構造(ボールの外側には何も無い状態)
- 回転しても全面がディスプレイになるレイアウト
が「neon」ではとても重要な要素となるのです.
そのために基板・バッテリー・モーター・センサなどのユニットはすべて回転するLEDよりも内側に収納する必要があります.
基本構造の模式図を以下に示します.
以後の用語は上の表記を用いて説明します.
この図で言うと,回転するのは,④ベアリング,⑥LED基板,⑦スリップリングが回転し,それ以外は静止しているレイアウトになります.
最終版「neon」のコア部分はこのようになっています.
いろいろ装飾が入っていますが,おいおい説明していきます.
回転部分の設計
回転部分は上のようになっており,
厚さ5mm(内径90mm)透明の外殻の内側にLEDが配置されるリング状の基板(外径84mm,内径77mm)があり,回転軸には上部にモーターモジュールが配置されてます.回転部分はモーターの回転を受けるギヤがついており,外殻とコアを繋ぐシャフト内には外部からの給電用電源線が通っています.
この部分が唯一映像が表示されない部分であり大きな欠点ではありますが,片持ち梁で回転体の根元を支えることで反対側では隙間なく映像を表示することができるようになっています.
下部にはスリップリングという部品が配置されています.
今回のように回転体にLEDが配置されている場合,そちらへの給電・信号を伝達する必要があり,そのようなバーサライタの方式にはいろいろなタイプがあります.
「neon」はこのページいうところの3の手法を採用しています.
理由は,球体の中に閉じ込めて転がしたりすることの特性上,回転体の重量が大きくなるとジャイロ効果によって本体の転がり回転をバーサライタの回転が邪魔することで,まっすぐ転がらなくなってしまうためです.
実はそのために外殻の厚みをわざと厚く取っています.外殻とコアの重量を重くすることで全体に対する回転体の重量比を圧倒的に小さくします.そうすることで回転体のジャイロ効果を相対的に無視するような方針を取っているのです.
しかしこのスリップリングには欠点もあり,
- 耐久性が低い
- 回転に伴うノイズの発生
- 高回転に使える製品が少ない,高価
- すぐ欠品する...
私の採用しているスリップリングは下記のaliexpressで$15くらいで購入した製品ですがすでに欠品で画像のみ残っていました(もう購入履歴のリンクも無くなっていました...)
今回はこのスリップリングを採用しますが,今後のために代用品を探しておかないといけません.
現時点で1000rpmに耐えて,超小型のスリップリングには下記のものがあります.
MMC118は250rpmまでですが,高耐久・軍用のMMC1189は1000rpmまで使えます.しかし値段が......
ということで引き続きwatchは続けます.
最近いろいろな方がスリップリング採用していて,普通のスリップリングを1000rpmあたりで使用してもノイズは出ないようです.
もちろん耐久性は下がってしまうのでしょうが...
シャフト
シャフトは強度に直結するので,3Dプリンタではなく金属(真鍮もしくはアルミ)で作成したくて旋盤で加工しています.
個人での開発において,この真鍮やアルミの金属加工はとても敷居が高かったです.私自身は機械工学科出身なので授業で旋盤を経験していたりしたのですが,そもそも旋盤を個人が扱える場所がほとんど無い状態です.
以前はTechShop Tokyoで旋盤が扱えたのですが,どんどん閉鎖していっています.
今もまだ探しているので,良い場所があったらアドバイスいただけると嬉しいです.
外部との接続部分も難しいところで第一世代の当時からずっと悩み続けていました.
第一世代はオーディオ用の4極ジャックを使ってUSB microの配線をコアに導入してそのままM5stackに接続していました.
これはこれでも良かった(4chなのでUSB2.0の信号がそのまま導入できるため,そのままarduinoIDEなどでコンパイルしたものをM5stackに転送できた)のですが,プラグがズレたり何よりシャフト径8mmに対してジャックの外径も8mmとなってしまい,うまく収まらないのが課題でした.シャフトに内ネジ切ってジャックのネジをはめ込んで固定しようと思ったのですが,そうすると外殻とのネジ深さが減ってしまい,強度的に問題があったのです.
そこで今回は外部との接続は電源2極のみのマグネット型にしました.
今回採用したものはこちら
調べた限り雌側コネクタの径が最も小さい(4.9mm)商品だと思います.上の2.5mmピンジャックがφ6だったので,8mmのシャフトを想定すると肉厚が1mm程度(そこからさらにネジ溝を切るのでもっと肉厚は薄くなる)
これがシャフト内にφ4.9のコネクタが設置できて内径に余裕ができたので,シャフト肉厚が増えることから強度も上げることができます.
なにより磁石で「パチン」と留まる感じがキモチイイw
コア
コアには,
- メイン基板・モジュール基板
- LiPoバッテリー,電源管理基板
- モーター
- 回転量を計測するホール素子
が収納され,シャフト・スリップリング同軸に配置する構造体の役割を持ちます.
各基板サイズが37x25mmとなっており,これを内部に収納できるようコアの直径を55mmに設定しました.
コアの内部にピッタリ
電池も中に収納します.
コア径は55mmですが,そこから回転体の回転量を計測するためのホール素子と磁石を設置します.
第2世代はコア部分が円筒で,端が回転体ギリギリのところにあったので,ホール素子を回転体ギリギリの位置に設置できたのですが,今回はかなり空間に余裕があり,ホール素子を取り付ける部分が課題になっています.
そのためにコアの外側に飾りを取り付けています.
コアと飾りを分けている理由は,バーサライタの重要な特徴の一つは透過性なのです.画像が生成される面の後ろが透けているのが映像の浮遊感を産むので,コアはより小さいほうが画像面の後ろ側が見えると考え,なるべく後ろの透過量を増やしているのです.
とはいえ,透過した先がテクスチャのある飾りであれば透過した感じを観察者は感じてもらえるのでは,ということでツルッとした面ではなく,凸凹のある飾りをいれてみました.
最終的にどちらが良いか判断して,形状を決めようと思っています.
これらの構造物は3Dプリンタで出力しています.
レジンはSK本舗さんの水洗いレジンの銀灰です.
今回の「neon」の構造には関係ありませんが,見る角度によって銀色になるお気に入りのレジンです.
プリンタはELEGOO Mars3です.造形精度はかなり良く気に入っていますが,購入してから立て続けに故障しまして,2度もELEGOO社からパーツを送ってもらった結果,現在快調に動くようになっています.
初回トラブルはタッチパネルが押せなくなり,2度目はCPUとZ軸センサが逝ってしまったらしく,ゼロ点まで下げたときに「メリメリ」とゼロ以下まで下げようとするので,慌てて電源OFFな感じでした.
それでも写真と状態を説明したらどちらも無償で速攻で代替パーツを送ってくれたので,サービスが良いのか故障慣れしてるのかわかりませんが,治ったので良しとします.
FDM方式も所有していますが,サイズと造形性能の関係でSLAの方を使っています.
外殻
さて実はSLA方式の3Dプリンタを導入した最大の動機は,この外殻の作成です.
第一世代,第二世代とも外殻の作成には本当に苦労しました.型をFDMで作りそこに透明レジンを流し込む方法やアクリルを削る方法も考えましたが,結局できてもかなりシンプルな形状になってしまうため諦めていましたし,Maker Faire に展示したときも外殻から出して展示していました.
いろいろ設計したものをDMM.makeに透明アクリルで3Dプリントを依頼しようとしましたが,そのときの見積もりで3Dプリンタが買えてしまうことが判明して,自分で作ろうと決意したのでした.
そのあたりの奮闘記は以下のリンクで
このときは実験用でFDMによる出力でした.
今回はついに本番です.
じゃーーーーん
印刷範囲ギリギリですがちゃんと出力できました.打ち出し直後はほんとにキレイ.
そうそう.実は以前AnycubicのPhoton-Sを所有していたのですが,そのときに印刷範囲がギリギリ足らずに設計そのものを100mm→90mmに変更して設計したのですが,よく考えてみたらmars3なら印刷範囲足りるし解像度も上がってキレイなんじゃね? となって買い替えまでしたのでした.
両面打ち出したものがこちら
ところが,実はこれ嫁さんが落としてしまい,割れてしまいました.
使用したのはSK本舗の水洗い透明レジンでしたが,やっぱり高靱性かタフレジン使わなければいけなさそうです.
高靱性で透明なレジンとしてはこのへんかな〜〜
②に続く