球体POV作成メモ(1)introduction
はじめに
私は2014年からneonというGUGENのハッカソンで最優秀賞を頂いたチームが母体になってジャグリング用のガジェットを作っています.
みんな本業を持っているうえ,それぞれ自分の活動がある中でのチームなので,なかなか進捗が捗りませんが,それでも毎年Maker Faire Tokyo(以後MFT)に出展したりといろいろな活動をしています. そして去年のMFT2018で私が作ったのが球体POVでした.
POV(Persistent Of Vision=残像)とは回転する物体に光源(LED)を取り付けてパターンを投影し残像効果により画像を表示するシステムのことです.
今回のMaker Faire Tokyoでも色々と展示されていましたね.
例えば
他にもバーサライタ(Versa-writer)というものもあり,こちらは手で振ると映像が提示されるものなどがあります.
例えば仲良くさせていただいている @carcon999 さんの
これはこちらで販売もしています.興味ある方はぜひ
...POVとバーサライタとの違いはよくわかりません.イメージ的にはモーター&エンコーダーやホール素子などで回転を検出してLEDの点滅を制御するのがPOV,加速度センサなどでスタートを検出して手で振ったり,コマのようなもので回転させるものがバーサライタなのかな,と漠然と思っております.
動機
今回の球体POVは,MFT2018で作ったPOVの改良版になります.
そのため今回のMFT2019版の基本設計はMFT2018のものと変わりません.
MFT2018版の大雑把な設計図が下のようになります.
特徴としては,
- 透明な球体の内部で回転する球体POV
- 回転するのは図中のLED(紫色)とスリップリング(青系)の一部のみ
- 透明な球体部分(外側の青色),マイコン・電池(緑色)は回転しない
- LEDへの信号伝達はスリップリングを介して行う
というものでした.
MFT2018で作った球体POVの中身の写真はこんな感じ.
これはこれで頑張ったのですが,問題点が2つ
- 解像度が足りない
- 軸の精度が低い
今回はこれらの問題点を解決した新生球体POVなので,ここでそれぞれの問題点についてどのように考えたか,をおさらいしてみます.
1.解像度が足りない
みての通りですw
上にある図にもありますが,画像を表示するLEDにはAPA102-5050というものを使いました.
APA102 5050 SMD高輝度チップLEDピクセルフレキシブルストリップライトDC 5V (黒 PCB, 1M 144leds IP20)
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APA102(Dotstar)はSPI通信を使って信号を送ることのできるシリアルLEDで,Arduinoなどの工作では比較的ポピュラーなものだと思います.
似たような製品としてWS2812(Neopixel)がありますが,APA102と比較すると通信速度が遅いため,高速動作させる必要があるPOVの用途ではAPA102の方がメジャーです.
1mあたり144個のLEDがつながっているLEDストリップからMFT2018では23個のLEDを配置することができます.
これで実際に画像を呈示してみた結果がこちら.
国旗くらいなら見られるかな,程度の解像度ですよね...
私の中では「コレジャナイ」感が半端なかったですw
こちらの詳細については以下で詳細を説明しています.
2.軸の精度が足りない
MFT2018の球体POVは,機構的に精度が足りませんでした.
上の動画内の回転しているところを見るとわかるのですが,回転にブレがあります.実はMFT2018版は透明の球体に入れて回転させると球体にLEDがぶつかってしまい,傷がつきやすくなってしまうのです.そのためデモでは球体から出しての展示となりました(球体から出した方が映像が綺麗に見えるというのもありましたが).
これについてちょっと考察したいと思います.
一つの原因は構造物の素材強度です.
このとき構造物のすべてを3Dプリンタで作成しました.積層式のヤツです.
Anycubic i3 Mega 3D プリンター 高精度 大きい プリンタサイズ 構造物取り易いヒートベッド (ブラック)
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この3Dプリンタの名誉のために言っておきますが,印刷精度についてはそれなりの性能でとても満足しています.通常の構造物を作るのには不満はないです.
それでも10Hz程度で回転する物体のシャフトを支えるには強度的に足りない感じでした.しかもそれは素材とその構造の二点で強度不足を感じていました.
このとき素材に使っていた印刷素材はPLAです.PLA自体はそれなりに強度があるのですが,どちらかというと「しなる」素材だと思っています.ペンチなどで潰すと「パキッ」というよりは「グニ..」っていう感じ.
さらに図のように軸部分は中空になっており,そこにコネクタが配置されています.
こんな感じ.そのため軸の直径は10mmあるのですが,2.5mmφの4極ソケットが入っているため直径7mmほどの貫通穴が通っています.こんなやつ
つまり軸径10mmφでも肉厚1.5mmの中空軸となっているのです.
さらに図のように透明の球体に固定するためにネジが切ってあるため先端部分はかなり細くなっており,強度的にはさらに弱い構造になっています.
もう一つ,構造体として回転するLED部分の土台もPLAで印刷したものでした.APA102のストリップを流用していたため,それを支える構造体が必要でした.この回転構造体に駆動力を与えるのは左図のマイコン上部にある超小型モーターです.つまり回転力が加わるのは上部のみで下部(スリップリングが配置されている)は上部からの駆動力を受けて受動的に回転することになるのです.
この駆動力を伝達する部分もPLAでした.しかも厚み2mm.このあたりの構造物の強度設計がぜんぜん甘かったというわけですね.
小さいガジェットなので,ある程度いろいろなものを詰め込むとこうなることは目に見えていたわけですが,やはり構造的にも素材的にも強度が足りなくなっていた,というわけです.
このあたりを踏まえて,新生球体POVは改良を加えていきました.
構造物の精度・強度の改良については,以下で詳細に説明します.
今回の結果
上の2つの課題を踏まえて今回作成したPOVデバイスについてこちらのページだけでも概要が掴めるように結果を示しておきます.
上の2つの課題についてのそれぞれの詳細は別のページに記載しますので,興味のある方はそちらも引き続き御覧ください.
1つ目の高解像度化については,APA102-2020という超小型のフルカラーLEDを基板を起こして配置しました.
その大きさ,2mm×2mmという小ささ.
片面で45個のLEDが付いています.いろいろなところに実装依頼見積もりを出してみたのですが,なかなか受けてくれるところが無さそうで,結局自分ですべて手ハンダしました.
最初のうちは
MakerFaireTokyo2019での成果はこんな感じ
この時点では,画像を表示するところまで完成できなかったのでGUGENに向けて画像を表示できるように追加実装しました.
これは地球儀を貼り付けてみたところです.太平洋上から北米に視点を移します.
こちらはアフリカ大陸からの視点
地球儀ではなく,チェック用に十字を配置した例